雪しぶきが轟き、風が唸り、山頂が呼んでいます。
2019年5月23日(金)、大雪渓で有名な北アルプス白馬岳(しろうまだけ)に登ってきました。今回は久しぶりの山スキーで行ってきました。山スキーは2016年以来実に3年ぶり。
2016年5月にも同じコースで登っているのですが、この時は急斜面の登りで体力気力を使い果たし、標高2500mくらいの中腹で引き返してきました。この時のリベンジをいつかしなければと思っていたのと、天気が非常に良くなる予報だったこと、そして時期的に山スキーができるのも今年最後になることなどを勘案して行くことに決めました。
久しぶりに山に行く、という大きなプレジャーであるにも関わらず、正直あまり気乗りはしませんでした。3年前の経験から大雪渓上部の急斜面を直登する辛さを知っているし、また1週間後に安曇野ハーフマラソンを控え、足に不要なダメージを負いたくないという考えもありました。何より、また登頂できなかったり、最悪ケガやトラブルで遭難したら・・・と色々不安がよぎり、直前まで悩みました。でも、「できる限りチャレンジする」が今の自分のモットーなので、今回もチャレンジすることにしました。
結果としては登頂して無事下山して来た訳ですが、非常に疲れました。とってもキツい山行でした。これは目的がレジャーではなくリベンジ、そして体を苛めぬくトレーニングの記録です。
登山の行程
今回のコースは一般的な白馬岳登山と同じ、猿倉から大雪渓を通過して白馬岳山頂に至るルート。一般登山客は通常7月の梅雨明けから登るルートですが、北アルプスでも槍穂高エリアと人気を二分する屈指の人気コースなので、夏場は特に大混雑するコースです。が、5月は登山客はさほど多くありません。ツボ足の登山者8割、スキーヤー2割くらいでしょうか。
今の時期は天気が良ければライトな雪山入門登山という感じで、雪崩も終わっているし危険な個所は特にありません。注意するのは天候の急変と落石くらい。特に落石は融雪に伴い音もなく落ちてくるので要注意です。
これより当日の記録です。
5時に安曇野の自宅を出て、6時20分頃猿倉駐車場に到着。平日なので駐車場は空いていました。これから登る白馬岳の山頂がきれいに見えています。天気は快晴、今日は下界は30度以上になる予報で、標高1250mの猿倉登山口でもすでに暑いくらいでした。
猿倉荘の綺麗なトイレで大を済ませ、スキーを背負って出発します。久しぶりに背負うスキーがクッソ重い!
猿倉荘からちょっとだけ登山道を登り、すぐに砂防工事用の管理道路に出ます。駐車場から続く林道で、この砂利道を1時間ほど歩いて大雪渓の末端白馬尻に向かいます。気温は高いが所々に残雪がありました。
ここでカモシカに会いました。詳しくは最後に動画で。
7時40分頃白馬尻に到着。まだ小屋はありません。今年は比較的雪が多いようで、白馬尻では雪渓の崩落は見られませんでした。
ここからはスキーで登ります。
シールを効かせてトコトコ登りますよ。俯瞰で見るとそれほど急には見えない大雪渓下部ですが・・・
実際には結構急斜面なんですよ。緩斜面は最初の数百メートルだけで、中盤以降はほとんど急斜面を登り続けます。斜面が荒れていてルート取りに難儀します。
ヒイヒイ言って登ります。この日は天気が良く気温も高いので雪がかなり腐っていました。シールの効きが相変わらず良くありません。ちょっとでも急斜面になると後ろにずり落ちてしまいます。僕が下手糞というのが一番ありますが。そんな訳でスピードが上がりません。
それと、山スキーやると必ず痛くなるのがカカト。ソックスが悪いのかブーツが悪いのかわかりませんが、踵全体が靴擦れになります。靴擦れ防止クリーム塗ってテーピングもしてきたんですが、それでもかなり痛くなり、大雪渓真ん中あたりで一旦ブーツを脱いでテーピングを増量しました。ついでにおにぎり補給。
左手に杓子岳の岩稜天狗菱が迫ってくると、大雪渓は最も傾斜のきつい「葱平(ねぶかっぴら)」に差し掛かります。ここから数百メートルを直登するのが非常にきつい。この辺りからシールでの登りは諦めて、スキーは背負ってツボ足で登ります。スキーの重さが堪えます。
葱平の手前あたりで、スキーを履いて急斜面を直登していく人に追い抜かれたのですが、こっちが5歩進んでしばらく休むを繰り返してやっとこさ登っているというのに、その人はザクザクとほとんど止まることも無く急斜面を直登していきます。結構な急斜面なのにどうしてスキーが後ろにずり落ちないか謎だし、全く息を整える素振りも見せないで登っていくのは一体どういう体力してるんだろう?と本当に驚きました。世の中にはすごい人がいるもんですね。僕なんか下の下です本当に。自信無くしました。
成層圏に近いせいか空の青さが感動的です。
この辺が葱平ですね。いやんなるくらい急斜面で、かつ直登できちゃうところがイヤらしい。やってみるとわかりますが、直登って本当にキツいんですよ。ちなみに夏は雪が消えるので岩稜の尾根をジグザグに登山道が付いていますのでそこまできつい感じではない。
そして上の写真の右側あたり、山頂からの斜面直下を登っていくのが正しいルートなのですが、僕は先行者の踏み跡を一生懸命トレースしていたら、大雪渓左側の杓子岳からの雪渓に入り込んでしまいました。
そのまま進むと進退窮まりそうだったので、仕方なく大トラバースして白馬大雪渓方面に戻りました。ここでも大きなタイムロス。雪が腐っているので滑落する恐怖はありませんでしたが、アイスバーンだったら滑落=死みたいな急斜面です。
このちょっと尾根っぽい所を越えて大雪渓に戻りました。それでも標高けっこう稼いだかな?と思ったのですが、目指す稜線はまだはるか上でした。そして全く気付かなかったのですが、どうやらこの辺でアイゼンを片方失くしました。
きついきつい葱平の急斜面をゼエゼエ言いながら登ります。急斜面で踵を着けないので、キックステップでブーツを雪面に打ち込んで、つま先立ちのような態勢でひたすら登り続けます。ふくらはぎが超疲れます。が、それ以上に息が上がります。そして踵の靴擦れが猛烈に痛い!長く動き続けられないくらい痛くなってきました。
少し進んでは止まって息を整える、を繰り返し繰り返し・・・
永遠かと思うような地獄の登りも何とか終わりが見えました。11時40分頃、スタートから5時間かかってやっと白馬岳頂上山荘に到着しました。ここまで長かったー。
ここまで来ればもう終わりのような気持ちだったのですが、ラスト100m最後の登りがあり、折れそうな気持ちを何とか奮い立たせて登りまして・・・
いよいよ稜線に辿り着きました。景色も開けて最高なんですが、疲労と靴擦れの痛みで正直あまり感動がありません。風も強くてじっとしていると寒い。
ここからはアイゼン不要の夏道をたどります。ここでアイゼンを外そうとして左足のアイゼンが無い事に気付きました。しばらくその辺を探しましたが見つからず。かなりショックでした。
とりあえずアイゼンは下りで探すとして、スキーもデポして頂上へ向かいます。10分ほどで白馬山荘到着。相変わらずどデカイ山小屋ですね。これは儲かりそう。
入口周辺は普通の山小屋と同じ趣なんですよね。もう15年も前ですが、僕も嫁さんと1回泊ったことあります。
踵の靴擦れがあまりにも痛くて限界だったので、山荘裏手の風を防げる場所でまたもやブーツを脱いで、靴擦れのケアをしました。もう手の施しようが無い感じでしたが、とりあえずバンドエイドで応急処置。
靴擦れに不安がある人はこれは絶対持っておいた良いです。痛みを緩和してくれます。
山荘から本日最後の登山道を登り、山頂を目指します。ここでも靴擦れが痛いわスキーブーツが歩きにくいわでゆっくりとしか登れず。
12時53分、苦労しましたが何とか標高2932mの白馬岳に登頂できました。今年最初の山頂かな?ほっと一安心しましたが、正直早く帰りたい気持ちが強かった。とにかく足が痛くて。風も強かったです。
それでも、せっかく来たので景色など楽しみました。山頂からは360度の大パノラマで、北は剣岳や立山連峰など、南には穂高連峰が圧倒的なボリューム感で、まだ雪の山々が神々しく聳えたっている姿に久しぶりに感動しました。やっぱり青空と雪の白のコントラストは最高。
白馬岳の山頂は南に向かって切れ落ちていて、下を覗くと結構怖い。この絶壁の下に登ってきた大雪渓が見えて、「こんなところをよく登ってきたなァ」としみじみ思います。ちなみにここからスキーで下れるのは選ばれしエクストリームスキーヤーのみです。我々一般人にはとても無理。
山頂で休憩もせず、10分ほど滞在して写真撮ったらすぐ下山してきました。稜線上でデポしてあったスキーを装着して、すぐにスキー滑降開始です。スキーで楽しく降ることは考えず、優先順位は1安全、2アイゼン発見です。
という訳でアイゼンを探しながらのんびりスキーで下ってきました。あちこち探して、杓子沢の方まで足を延ばしましたが結局発見できませんでした。残念。
スキーの方は、上部の雪がそこそこ快適なザラメ状態だったので恐怖感はほとんどなく、葱平の急斜面も難なく降って来れました。むしろ雪渓下部の溶けて荒れた雪面の方が難易度高かった。2回位派手に転倒しました。
白馬尻には2時9分到着。滑り始めて30分もかからず下ってきました。登り6時間、下り30分ですよ。本当にあっという間。スキーはそこそこ楽しめました。
ここからはまたもやスキーを担いで下ります。あーしんどい。
下山時は気温が上昇して、登ってくるときまだ雪面だった所に沢と木道が出現していました。ややわかりづらかった白馬尻へのアプローチも、ペンキマークを付けてくれてあり非常にわかりやすくなっていました。いよいよ夏山シーズン間近です。
朝渡渉した大きめの沢にも、橋が架かっていました。関係者の皆さんありがとうございます。これから行く人は渡渉しなくていいですよ。
午後3時、駐車場に戻ってきました。非常に疲れましたが、無事下山できてほっとしました。
装備
相変わらず10年以上前の装備で登りました。丈夫にできているおかげで特にメンテナンスしていないのにスキーもビンディングもブーツも不具合無しでした。ザックは僕の自慢の名品「デイナデザインのタトゥーシュ35」です。
ブーツはスカルパ、スキーはフォルクル、ビンディングはディアミールフリーライドです。ブーツ軽量でいいんですが、とにかく踵の靴擦れ問題が解消しなければ二度と山スキーやりたくない、そのくらい今回は足が痛かった。
ウエアはpatagonia R0.5をベースレイヤーに、風が強くなった中腹以降は同じくパタゴニアのオールフリージャケットを着ました。ストレッチが超効いて快適でした。風もシャットアウトしてくれて高山では最高のウエアです。パンツはこれも大昔から使っているモンベルのドロワッドパンツ。完全防水ゴアテックスで丈夫なんですよ。サイドをジッパーで解放できるので暑くても快適でした。
シェルアウターはpatagoniaのライトニングジャケットを持って行きましたが、着ませんでした。ダウンなどの防寒は今回持って行きませんでしたが、万が一のビバークに備えてミドルレイヤーも持って行くべきでしょう。
コースタイムなど
山と高原地図アプリで記録したデータをヤマレコに取り込んで、コースタイムを見てみてびっくり。歩くペースコースタイムの1.2~1.3倍!スキーで降り爆速だったにもかかわらず、コースタイムより遅いとは。
通常夏山だと荷物を軽くして走ったりするので歩くペース0.5とかだったりするので、今回の遅さにはびっくりしました。今回の登山では特にスキーが重りになってしまった。足が痛くて2回治療したのもタイムロスだし。ツボ足で登った方が早いですね。
感想
とにかくきつかった。「きつい」って1000回位言いましたからね。最後駐車場まで戻ってきて、ブーツを脱いで一息ついたら急に動悸・息切れが激しくなり、しばらく動けませんでした。
快適に登るための山スキーでもあるはずですが、僕の経験実力不足から登るのにスキーがむしろ邪魔な存在になってしまったのが大きいです。スキーで登る技術や体力が圧倒的に足りなかった。
後は踵の靴擦れですね。これが非常に痛くていけませんでした。帰ってきて見たら見事に水膨れになっていました。この時と同じ。
翌日以降も非常に痛くて泣きそうでした。バンドエイドキズパワーパッドで治療しています。マラソンまでに直ってくれればいいけど。
色々と大変な登山でしたが、無事登頂できたことはよかったです。何とか3年前のリベンジを果たせました。そしてこれからのトレランに向けても、いい練習になったと思います。この後6月2日に安曇野ハーフマラソン、6月29日には美ヶ原トレイルラン、7月26日には富士登山競走が控えています。今回の山行を経て、少しでもいい記録出せるといいのですが。
最後に、この記録読んで行ってみよう、と思う方は、十分な準備と装備で臨んでください。天気が崩れると山は一気に冬になります。舐めてかかると簡単に死にますのでご注意を。それではいい山行を!
おまけ:ハンディカムで動画撮影したのでyoutubeにアップしてみました。
カモシカ写ってます。
おまけその2:ヤマレコの記録です。