黒部峡谷・下ノ廊下に行ってきました。
感想は一言、超面白かった。
V字峡谷、断崖絶壁、水平歩道、張り出した桟道、手掘りの洞窟、高熱隧道、日本一危険な温泉、トロッコ電車・・・それに紅葉!
下ノ廊下の魅力は語り尽くせぬほどありますが、とにかく、最高に楽しかったです。大人も子供も喜ぶ最高の絶景とアドベンチャー体験が詰まった超濃密な時間でした。
「下ノ廊下」とは?
目もくらむ水平歩道
北アルプスの黒部ダムから富山県の欅平までの峡谷沿いのルートです。
厳密には黒部湖から仙人谷ダムまでの旧日電歩道が下ノ廊下で、仙人谷ダムから欅平までは水平歩道と分かれていますが、一般的に下ノ廊下といえば黒部湖~欅平間のルート全体の事を指します。
深いV字峡谷を形成する黒部川に沿って歩くルートのため、高度感のある非常に狭い道が特徴。岩壁をコの字型にくり抜いた道や、断崖絶壁に張り出して設置された桟道など、落ちたら死ぬような道が連続するルートです。(ただし死なないように安全対策が十分されているので見かけほど危険ではありません)
登山のように上り下りはそれほど無いのですが、山中一泊が必須で、全長26キロとそこそこ長い距離をそこそこ緊張感のある道が続くため、一般的には登山に慣れた上級者向きのルートとされています。
またこのエリアは豪雪地帯として知られており、雪解けを待ってからの関西電力によるルート整備が終わるまで歩くことができないため、下の廊下に行けるのは9月後半~10月末までの1ヶ月半ほどと非常に短い期間となっています。
電源開発の歴史を辿る道
下ノ廊下(旧日電歩道)は、戦前の電力開発のために整備された歩荷道が元になっています。旧日本電力、現在は関西電力の水力発電所とそれに伴う貯水ダムの建設の歴史とともに作られたルート。歩荷がセメント担いで断崖絶壁に渡された桟道を命がけで伝って行ったエピソードなどは身震いします。そして山小屋のある阿曽原温泉小屋周辺は、岩盤温度が160度以上にもなる高熱地帯で、そこにトンネル(隧道・ずいどう)を開通させるために多くの犠牲者を出したという悲しくも興味深い歴史の舞台です。そんな歴史を追体験することができるのも下ノ廊下の魅力のひとつです。
吉村昭著「高熱隧道」は、歩く前にぜひ読んでおくことをお勧めします。
「日本一危険な温泉」
下ノ廊下といえば温泉。こんな山深い所で露天風呂に入れます。
ルート上の「阿曽原温泉小屋」には高熱隧道から出る温泉を引いた立派な露天風呂があります。下ノ廊下を歩かなければたどり着けないその立地から「日本一危険な温泉」と言われています。ちなみに温泉は男女入れ替え制で、夜8時以降は混浴になります。
畏怖と憧れの対象だった「下ノ廊下」
僕が初めて下ノ廊下のことを知ったのは、登山を始めた頃に買ったガイドブックに載っていたルート紹介を読んだとき。ガイドブックの水平歩道の写真に衝撃を受けました。「こんな危険そうな道あるんか」と当時驚きました。
ずっと「自分には縁のない世界」だと思っていた下の廊下ですが、「いつか歩いてみたい」とはずっと思っていました。調べてみたら起点は黒部ダムだし案外近い。適期は紅葉シーズンの10月後半てまさに今じゃん(その時)。今年は雪が早くて北アルプスの高山はほぼ雪山の世界になっていて安易に登れない中、標高がそれほど高くない下の廊下は今一番行くべき場所でした。
「すごく怖い場所」というイメージでしたが、ネットで見てみるとよく整備されていて落ちなきゃ大丈夫そうだし、何より登りが無くて下り基調というのが最高。ということで、今シーズンの集大成として計画しました。
地図・コースタイムなど
オーソドックスに黒部ダムスタート、欅平ゴールで計画しました。
欅平からは電車を乗り継いで戻ってくるのですが、2日目欅平からトロッコ電車の始発に乗っても、信濃大町初扇沢行の最終バスの時間には間に合わないので、マイカーは信濃大町にデポして1日目バスで扇沢に向かいました。
当日の様子を写真で振り返る(写真多め)
めっちゃ長いので、核心部だけ動画でまとめました。
今回久しぶりにgoproもどきを持って行きましたが、やっぱりビデオはいいですね。
1日目 10/26(火)
ということで、信濃大町発の始発バスで扇沢まで来ました。バス乗車は10名弱。今日の天気予報は曇り時々晴れ。朝は気温が低く、針ノ木岳方面は雪が積もっています。
7時30分発の黒部ダム行電気バスに乗り込みます。自家用車組も含めて20~20人乗車でした。紅葉シーズンで結構混むと予想していましたが、そうでもなかった。
黒部ダムまで破砕帯を抜けて15分ほど。バスを下車し、アルペンルート乗り継ぎ組や黒部ダム観光組を分かれて下ノ廊下スタート地点に向かいます。ただこの時期はやはりほとんどの乗客が下ノ廊下行のようでした。
黒部ダムの堤防下に向かって降ります。
山の上の方は結構しっかりとした積雪。心配した天気はそれほど悪くなく青空も見えていました。
15分ほど下って黒部ダムの下まで降りてきました。この時期観光放水は終了しています。
黒部川を渡ります。この後旅の終わりまでずっと一緒に歩く黒部川ですが、この辺ではまだまだ穏やかな渓流です。
旧日電歩道のスタートです。基本的には黒部川の左岸を歩きます。序盤は高度感も無く普通の登山道です。
今年の紅葉はかなり遅くて先に雪が来ましたが、思ったよりきれいに紅葉していました。6割くらい?
最初の分岐。ここを左に行くと立山方面に行っちまうので注意。
だんだんと水の色がコバルトブルーになってきました。
紅葉と渓谷美がめちゃくちゃ映える。
立派な滝。こんな景色がずっと続く。
命綱の番線。立派な針金。ケガしないように末端もきちんとテープで処理してある。この番線が途切れなくずっと固定されている。この整備にかかるコストは相当なものだと思う。
立山方面からの滝。
だんだんと高さが出てきます。
立派な崖。巨大な峡谷が迫力で迫ってくる。写真では伝わらないド迫力。
天気がよくなってきた。まだまだ序盤ですが、本当に美しい景色。
序盤の難所、梯子ゾーンに到達。前を歩く二人組パーティとは行のバスから帰りの駐車場までずっと一緒でした。
崩落した道を高巻くように設置された丸太の梯子。すごくしっかりしているので事前情報ほど怖くはありません。
登り切って上から見ると確かに高度感がありますが、手を滑らせなければ落ちることはありません。ここが難所だと心配していましたが、全然どうってことなかった。ていうかまだまだ序盤も序盤です。ちなみにこの後こういった梯子は出てきません。
ここからは、いよいよ下の廊下っぽくなってきます。崖に張り出した桟道や、岩を逆コノ字型にくり抜いた狭い道を通過します。
そして黒部川は峡谷美が強まってきます。何この綺麗な景色・・・。
不慣れなうちは番線を絶対離さないようにゆっくりと慎重に進みますが、だんだんと慣れてきて恐怖心が麻痺してきます。とはいえつまずいたりして落ちたらアウト。
黒部川にはいくつか見どころが設定されています。この白竜峡というのは割と広めの普通の渓流でした。
この辺が白竜峡だと思うんですが・・・
歩いてきた道を振り返る。
出発から三時間半ほど歩いて、黒部峡谷の最大の見どころである十字峡に到着。
行く前は「ただの川じゃん」くらいに思っていましたが、実際歩いて辿り着いてみると想像以上に綺麗でびっくりしました。そして本当に十字に川が交わっていて面白い。黒部川本流に、剣岳からの剣沢と、針ノ木岳からの棒小屋沢が合流しています。自然が作り出す景観は人知を越えていますね。
十字峡はルートからはよく見えず、ちょっと脇道に逸れて一段下がった広場まで下るとよく見えます。この写真は剣岳から流れてくる剣沢の滝。物凄い水量で音やしぶきが大迫力でした。滝つぼも深緑で美しかった。
十字峡のすぐ上がちょっとした広場になっているので、そこでおにぎりなど食べて軽く休憩。その後すぐの吊橋を渡ります。
下の廊下後半はさらに高度感を増した道の連続となります。
下を見るとヒュンってなる。
そして紅葉が始まった絶壁と樹木がとても美しくて、ついつい足を止めて写真を撮ってしまいます。もっと広角レンズが無いと迫力が伝わらないなあ。
谷に添って絶壁に付けられた道をひたすら進みます。
ここはS字峡ですね。
突然、山の中腹に巨大な人口建造物が見えてきます。関西電力の黒四発電所の電線引き込み部分です。巨大で恐ろしいです。
この長い吊橋を渡ると、危険な水平歩道は終了となります。ここからはルートの趣がかなり変ります。
古いトンネル後とか廃墟感たっぷり。
異世界に迷い込んだかのよう。歴史を感じますね。
これまでの道と打って変わって普通の林道に違和感。
紅葉と巨大な滝。この辺は森が美しかった。
ほどなく、仙人谷ダムに到着。小さなダムですが、水の色が超綺麗。このダムを造るために高熱隧道工事で大勢が犠牲になったと思うと感慨深い。
ダムの堤防を渡ります。
ダムのすぐ向こうに欅平から続く関西電力の業務用列車の線路が見えます。将来的には一般に開放するという話も聞こえてきています。
ダムの下では物凄い放水が見られます。
堤防を渡り切り、階段を降りまして…
このドアからダム施設内に侵入します。ワクワクが止まりません。
中に入ると湿気がすごい!ここからダム施設内の無人の通路を通らせてもらいます。
レトロな通路。ここは現実世界か・・・?
その後、道は先ほどの線路につながります。運が良ければ通過する列車を見ることができるそうです。
線路を渡り、先へ進みます。このダム施設内は所々硫黄の臭気を感じ、場所によってはすごく高温になっている所もあり、高熱隧道を肌で感じることができます。
あまり整備されていないエリアもあります。もう非現実的すぎて超楽しい!
このゲートを出ると、ダム施設内の見学は終了となります。名残惜しい…。
山際にそびえる関電の宿舎。大雪崩れが来ても倒壊しなそうな立派な施設です。
そしてここからしばらく急な登山道を登ります。もうじきラストになります。
少し下ると、阿曽原温泉小屋が見えてきます。
2時間ちょい過ぎ、無事阿曽原温泉小屋に到着しました。スタッフが外で待機していてすぐに受付できました。
心配していたテント場はガラガラでした。奥の方の草付の一等地を確保。この日は偶数時間が男性の入浴時間だったので、テント設営もそこそこにダッシュで温泉に向かいます。
噂の阿曽原温泉。湯加減はばっちり、ビールも飲んで最高でした。登山中にお風呂入る経験とか無いんで非常に楽しかった。下ノ廊下を歩いてきた高揚感もあって、居合わせた人たちと変なテンションで話が弾みました。
この時間はまだ登山者も少なく快適に入浴できました。この後6時台にも入りましたが、オッサンが20人ばかりいてイモ洗い状態でした。それはそれで思い出深かったけど。ちなみ脱衣所的な小屋は無く、手前のスノコの上で着替えます。
温泉はすぐ横の高熱隧道から引かれています。
シートをめくって中に入ると高温のサウナ状態でした。
風呂から上がり、荷物を整理整頓してお楽しみの宴会タイムです。このために登山やってる。
今回はビール350ml×3本、ワイン500ml、ウイスキー250ml持ち込みました。食事はウインナー、豚の角煮など。飲み過ぎて翌日二日酔いでした…。
テントから見る阿曽原温泉小屋。
トイレは和式ですが非常に綺麗です。何と水洗トイレです。トイレットペーパーは設置されていません。
テントでのんびりと酒飲みながら、山を見る。ドコモの電波は一切入らずスマホも見れないので、飲むしかやることが無い。
何だかわからない写真ですが、夜は晴れて星も見えました。貧弱三脚で30秒露光してみたけどちょっと足りなかったですね。
2日目 10/27(水)
朝は4時半起き。5時半出発を目指して撤収準備します。ゆっくり温泉に入ってから出発しようと思ったけど、バタバタして入れず。何だかんだで結局出発は6時20分頃になってしまった。
小屋からしばらくは普通の登山道を登ります。ここが辛かった。基本登りがほとんど無いルートなんで、時々出てくる登りが非常にシンドイ。
そして水平歩道が始まります。二日目は黒部川から高い所をずっと水平に歩き続けるルートなので、高度感は一日目よりあります。
水平歩道、わかります?綺麗に水平でした。
堤防の中のトンネルを歩いたりもします。
岩をくり抜いた道。落ちたらヤバいけど道は基本的にフラットで歩きやすい。
あれが雪崩で吹き飛んだ宿舎が激突したという奥鐘山か。
本日のハイライトはこの大太鼓展望台です。
これです。ここが大太鼓と呼ばれる場所。見事なコノ字型。下を覗くと高さ500mはあろうかという断崖絶壁で身震いしますが、道はしっかりしているので番線さえ掴んでいればどうってことないですけど、やっぱり怖いです。
この大太鼓では写真もビデオもたくさん撮って長居しました。すげえ怖いけど興奮もすごくて、「下ノ廊下を歩いているんだ」っていう実感があって楽しかったですね。
次なるスポットは志合谷トンネル。真っ暗な手掘りのトンネルをヘッドランプの明かりを頼りに通過します。
ライトが無いと本当に真っ暗で、かつ足元には10cmほども水が貯まっています。手掘りのトンネルはあちこちゴツゴツと岩が突き出ているのでヘルメット必須。クネクネと曲がりくねって200mもあります。何回もヘルメットを天井にぶつけました。トンネル工事恐ろしいわ。
トンネルを出て、歩いてきた対岸の水平歩道。見事なもんだ。
黒部川はさんで、奥鐘山の大岩壁が近い。この辺まで来ると、欅平駅のアナウンスの音や列車の汽笛が聞こえてきます。やっとドコモの電波も来ました。
白馬岳~不帰キレットでしょうか。真っ白ですね。山はもう冬だ。
普通の登山道になったら、終わりは近い。
ここまで来れば、あとは遊歩道です。結構急な下りでした。
ゴールの欅平駅が見えてきました。
10時過ぎ、無事ゴールしました。冒険の旅が終わってしまった…。
欅平駅構内には高熱隧道の原稿が飾ってありました。胸が熱くなるな。
駅のすぐ横に黒三発電所。仙人谷ダムの水をここに引いています。
トロッコ電車で宇奈月まで1時間20分の旅。。ここからは鉄道移動で大町まで戻るよ。
オープンエアのトロッコ電車は室井滋のアナウンスなんかもあって楽しいけど、これまで見てきた絶景より一段見劣りするし、とにかく寒いのが困った。
宇奈月にやっと到着。
駅にももクロの展示あり。
宇奈月温泉街をぶらり歩いてお昼ご飯食べようと思ったけど、平日のせいかやってる店がない!
富山地方鉄道。
お昼ご飯はコンビニで買ったマスの寿司
黒部宇奈月温泉から糸魚川までは北陸新幹線はくたかに乗車。
その後大糸線に乗り換え。1両編成かよ。
南小谷でさらに乗り換えて、信濃大町に午後5時過ぎに戻ってきました。この後マイカーで自宅まで戻って長い旅の終了。
ルート詳細
出発時刻/高度: 07:47 / 1519m
到着時刻/高度: 10:18 / 602m
合計時間: 26時間31分
合計距離: 27.8km
最高点の標高: 1539m
最低点の標高: 597m
累積標高(上り): 2280m
累積標高(下り): 3194m
交通手段詳細
駐車場…大町市営仁科町駐車場(駅から7~8分・無料)
行き
- アルピコバス(信濃大町⇒扇沢)6:15発
- 関電電気バス(扇沢⇒黒部ダム)7:30発
帰り
- 黒部峡谷鉄道(欅平⇒宇奈月)10:46発
- 富山地方鉄道(宇奈月温泉⇒新黒部)13:13発
- 北陸新幹線(黒部宇奈月温泉⇒糸魚川)14:33発
- 大糸線(糸魚川⇒信濃大町)15:13発
- 車を回収して帰宅
帰りは乗り換えの待ち時間もあったりしてほぼ一日がかりで帰ってきました。
かかった費用
- アルピコバス 1390円
- 電気バス 1300円(平日割り)
- 阿曽原温泉小屋テント場 1800円(温泉含む)
- 黒部峡谷鉄道 1980円
- 富山地方鉄道 640円
- JR 2860円(新幹線含む)
計9970円
あとはコンビニやジュースで1000円くらいかな。1万円でたっぷり楽しめました。
服装・装備など
今回は山の上では雪が降るような寒い時期でしたが、下の廊下については標高1000mほどとそれほど気温が低くないということで、いつもの夏山よりはちょい厚着でベースも長袖で、防寒兼着替えとしてパタゴニアのR0.5も持って行きました。その上にオールフリージャケット。オールフリーはノンストレスで秋には最高ですね。パンツもちょい厚手のマーモットにしました。
ザックはグレゴリーミウォック34で、相変わらずのギュウギュウ詰めでした。ザックの中身は後日別記事でご紹介予定です。色々外付けでカッコ悪いので、もう少し大き目50リットルくらいの軽量ザックが欲しいです。
まとめ
ということで、無事下の廊下を踏破することができて感無量です。
下の廊下についてはネットでも危険とか上級者向きとか色々書かれていますが、確かに危険な道だけど、技術的に難しいところはないので、スマホ見ながらとかビデオ撮りながらとかでなく、注意して歩けば大丈夫だと思いました。ただし距離はそれなりに長いので疲れることは疲れます。それと登りがほとんど無くて最高だと思いました。
景色最高、非日常感ある水平歩道最高、温泉がとにかく最高。関電の発電所施設内、線路内の通過、手掘りの真っ暗なトンネルの通過など盛りだくさんで楽しいアドベンチャー体験でした。
今シーズンはたくさんテント泊登山をやったけど、下ノ廊下で終わるなんてドラマチックすぎ。大変満足しました。来年も行くと思います。